筈見有弘『スピルバーク』

筈見有弘『スピルバーク』

アメリカ映画は1960年代末にハリウッド撮影所システムが崩壊し、素人の映画監督、俳優によるニュー・シネマ「俺たちに明日はない」「卒業」「明日にむかって撃て」「イージーライダー」という問題提起の映画のあと、70年代にコッポラやルーカスそしてスピルバークの娯楽映画の復活はが起こった。筈見氏のこの本は87年刊行だから、いまでは古くなったが、当時の状況がよくわかる。スピルバーグ作品も90年以後今日までの創作「シンドラーのリスト」などは当然」取り上げられないが、初期スピルバーグ論としては面白い。
 ユダヤの家系に生まれ郊外家庭にそだち、テレビ子で優しい内気ないじめられ子が父母の離婚で母子家庭になりながら、映画少年の夢をかなえていく。70年代を風靡した映画作家がコッポラもルーカスもスピルバークもカリフォルニャの大学映画学科を卒業している専門家なのは驚きだ。映画の面白さをちゃんと学んでいる。筈見氏はディズニー精神を盛り込んだ映画として「未知との遭遇」「ET」を分析している。私は「インディ・ジョーンズ・魔宮の伝説」を見たとき、ジェットコースター・ムービーだと思った。筈見氏は「未知の遭遇」を「ピノキオ」に、「ET」を「ピーターパン」のディズニー映画の影響による少年の夢と、オモチャ好きの冒険精神とを分析している。映画を遊園地にしている楽しさ。
 少年少女の不安と大人的のものへの恐怖は、「激突」「ジョーズ」「ボルダーガイスト」にえがかれ、ショックとサスペンスはヒッチコックから学なんでいると思う。スピルバークには、少年少女の冒険精神と少数な異端な弱者への友情と愛があり、それが発展し「カラー・ピープル」や「太陽の帝国」「シンドラーのリスト」になってくる。私はディズニーとともに、マーク・トウェインハックルベリー・フィンの冒険」の精神が、スピルバークにはあると思う。(講談社現代新書