外尾悦郎『ガウディの伝言』

外尾悦郎『ガウディの伝言』

 スペイン・バルセロナサグラダ・ファミリア(聖家族贖罪聖堂)は1882年着工されて128年経つが、いまだ建設途上であり2020年に完成するといわれている。その大部分を設計し1926年に死去した建築家ガウディの隠されたメッセージを読み解こうとする本である。著者の外尾氏は、1978年からこの聖堂の彫刻を担当し、2000年に「生誕の門」の15体の天使像を完成させた人だ。サグラダ・ファミリアでコツコツと石を刻んできたひとだけに、ガウディ論も聖堂論も説得力がある。
ガウディは神に捧げるとともに人間を幸せにする建築を作ろうとし、造形だけでなく、光と音を組み合わせた総合芸術を目指した。十二使徒の塔は螺旋階段が設けられているが鐘楼で、生誕の門は84本の鐘が吊るされピアノになり、受難の門はパイプオルガンになる。ガウディは19世紀末には奇妙に見えたプレキャスト工法、破砕タイルの曲面の被覆、廃材利用のエコロジカルな建築など合理的精神で現代に先駆けて造ったと外尾氏は指摘している。ガウディは平面図面よりも、三次元の模型を作り職人と対話しながら建てていった。曲線ばかりというのは誤解で、すべて直線で双曲面、放物線面も作られる。シェル構造の原点もあり、すべて自然の動物、植物、山川から学んでいる。基準数値は7・5mでその比例数でつくられる。無数の石の堆積が天に引っ張られ、自然に伸びていくのは、逆さ吊り実験による懸垂曲線を反転させたものと外尾氏はいう。機能と構造と象徴が三位一体になっている。
スペイン市民戦争で内部が破壊されたロザリオの間にある聖母マリア像など石造彫刻の修復する外尾氏の苦心は、スペイン現代史を読んでいるようだ。ガウディの苦難な一生は、病苦と闘い孤独で、晩年は聖堂にベットで寝泊りし貧乏で、市電にはねられ死ぬことで終わる。(光文社新書