レヴィ=ストロース『現代世界と人類学』

レヴィ=ストロース『現代世界と人類学』


 1987年東京講演をまとめたものだが、いま読んでも21世紀の世界のあり方に示唆に富む。レヴィ=ストロースは現代人類学を第三の人文主義(ユマニスム)と位置づけ、15世紀ルネッサンス、19世紀の異国趣味に次ぐ第三の時代と位置づけている。一つの文明が他文明を比較することなしに自分を省みることが出来ないという。差異の認識から、文化相対主義や多様性の重要さ、文化と人種特性のレベルの違いや進歩の観念の相対化、自然との調和などが引き出される。未開社会のモデル化は否定し、文化の融合も否定的で、世界文明の均質化はかならず差異を産み、多様化せざるを得ないという。
この講演でもレヴィ=ストロースは、未開社会の小集団をぜんまい仕掛けの機械に喩え、摩擦も熱も生じない無秩序(エントロピー)も少ない、初期状態を保持する社会と考えている。それは停滞に見えるが今言われている経済成長第一の進歩主義でない「冷たい社会=定常社会」に近いと考える。他方現代は熱力学的機械に喩え、蒸気機関に始まる加熱器と冷却器の温度差により大量のエネルギーを生じるが、エントロピーも増大する「熱い社会」とみる。熱い社会は原発に行き着くが、同時に内部にも社会的位階秩序を作り、その対立がエネルギーを生む進歩社会だが、人間関係にエントロピーを生み出す。この二つの社会に対して、レヴィ=ストロースは社会内部に多量なエントロピーを産まない透明さと内的均衡の社会を提言している。
未開社会が教えてくれるものとして、小集団が持っていた環境の適応技術、直接的コミュニケーション、人口増加を抑制する知恵、疎外しない労働、かなり豊かな社会で病原菌をシャットアウトする生き方などを挙げている。レヴィ=ストロース文化人類学の入門書としても良い本である。(サイマル出版会川田順造渡辺公三訳)