モース研究会『マルセル・モースの世界』

モース研究会『マルセル・モースの世界』

 フランス人類学の父といわれるモースがいま見直されている。この本は東京外語大アジア・アフリカ言語文化研究所の共同研究の成果だが、供犠論、呪術論、贈与論といった文化人類学だけでなく、1920,30年代モースが関わった協同組合論、ナシオン論、身体論、芸術論まで視野を広げ、全体像を捉えようとしている。モースが注目されたのは、自由市場原理の社会や、ソ連・中国型社会主義に対する第三の道として、「社会連帯主義」による中間集団などの協同組合主義が注目されているからだ。
 渡辺公三氏は「レヴィ=ストロースからさかのぼるー自然・都市・協同組合」の章で、また佐久間寛氏は「交換、所有、生産―「贈与論」と同時代の経済思想」の章で、モースの人類学がいかに現代の協同組合論に繋がるかを論じていて面白い。佐久間氏は贈与論が、単なる機械的生産ではない福祉制度を下支えされる諸活動つまり再生産活動―人と物の生を産む営みの総体であり、道徳的次元と結びつくーと生産と贈与をつなげてモース論を展開している。
 「自己から脱して、自由にそして強いられつつ与えること」という視点でのモースの供犠論、ナシオン論、呪術論も、贈与を経済学で捉えるのでなく、文化として考えるというのも多くの示唆を与える。文化は自然の変形であり、一連の媒介過程だという基本思想は、叔父の社会学者デュルケムの全体社会事象論と連帯思想とともに、今後の研究の発展が注目される。(平凡社新書