クォン・ヨンソク『韓流と日流』

クォン・ヨンソク『「韓流」と「日流」』


韓国人と日本人の境界人というヨンソク氏が書いた文化交流から始まった日韓関係論である。日本で0年代から起こった「韓流」ブームは、いまや「冬ソナ」から「チャングムの誓い」「朱蒙」といった韓国時代劇、さらに少女時代などK−ポップまで大衆文化に定着している。さらに料理、コスメ、電化製品まで「韓流」は日本人の生活に入っている。他方1998年の金大中の日本大衆文化開放以後、「日流」は映画、ドラマ、J−ポップだけでなく、空前の日本小説ブームを韓国で引き起こしている。21世紀はヨンソク氏によれば、これまで閉鎖的でナショナルな枠に閉じこもっていた日本と韓国が多元的、多文化的な国際市民国家に生まれ変わる大変動の始まりであり、「東アジア流」の未来が開けてきたという。
韓国と日本の間を、少年期から行き来していたヨンソク氏の文化体験を基に書かれているから面白い。日本の韓流がTVドラマや映画で中高年女性から始まったのに対し、韓国の日流が若者から始まり、小説、映画、音楽、ファッションと広範囲だったことの分析は鋭い。韓流がノスタルジックなまなざしなのに、日流がクールな自由な感性とセックスの解放を伴ったという観点も興味深い。衛星テレビ、スカパーでの韓国時代劇ブームと歴史意識の変化と近現代史を避けることには、日韓の深淵も感じる。
 私が興味深く読んだのは、日本小説ブームである。村上春樹江国香織奥田英朗などの空前ブームの社会背景に関する分析は、韓国社会のいまだ儒教倫理が強く個人に色々な「当為性」や役割を期待される「ロール・モデル」からの解放から、クールで性が解放され、軽い感性のライフスタイルへの憧れからだとヨンソク氏はみている。とすれば「日流」は記号の消費に欲望を育むポストモダン的遊牧する感性ということになる。日本の「韓流」は日本に失われつつある礼節や倫理、勇気や弱者への奉仕、正義の闘い、純愛などプレモダン的郷愁もあるのではないか。日韓相互学びあいの時代に入ったのは確かだが、この本は色んなヒントを与えてくれる。(NHK出版)