G/シュミット『政治的なものの概念』

C・シュミット『政治的なものの概念

 政治学者・丸山眞男は、ドイツの政治学者シュミットについて「国家学のうえでは、近代国家の中性化・非政治化的傾向の克服として、政治学の面では議会政治と政治的多元論の論駁としてあらわれた。すべての政治概念は『敵』の存在を前提とする論争的性格をもつというシュミットの確信にふさわしく(中略)例外状態(戦争、革命、独裁)からして法、主権、政治などの本質を規定してゆく」(『丸山眞男集・第六巻』・岩波書店)と書いている。 
 シュミットはこの本で、道徳では善と悪、美的では美と醜、経済では利と損の究極区別があり、政治では友と敵であり、公敵との抗争で、そこから結合と分離、連合と離反がおこる。それは極端な形では、国家の政治的外部では戦争で現れ、内部では内乱、革命となる。国家の政治では例外的状態を含め、決定的事態での決定権を持つのが「主権」という。
 シュミトの論では、最終的には倫理、経済、文化の個人主義的自由に基づく非政治的概念も「政治的概念」から逃れられないことになる。社会に対する国家の優位は「非常時状態」に決定を下すものである主権として強まる。友・敵の対立が激化し、国家主権は国家の敵を決定し、公共の安全と秩序のため政策を実現していく。
 この本を読むと、シュミットが自由主義的国家論や議会主義を批判し、非政治的概念を否定していく政治決断主義が、ナチス全体主義に加担していく思考に行き着くと思った。だが政治敵を取引相手、討論相手に変え、あいまいな妥協が政策の決定を先送りにしていく妥協と調和の民主主義的概念が、危機的な例外状態に有効なのかの疑問も確かにあるのである。(未来社・田中浩、原田武雄訳)