岩崎昶『チャーリー・チャップリン』

岩崎昶『チャーリー・チャップリン


       20世紀のシェイクスピアであるチャップリンに関して書かれた本は数多くある。『チャップリン自伝』(新潮文庫中野好夫訳)もある。映画評論で戦中・戦後した岩崎のこの本は、チヤップリンの人間像と映画を総合的に描いている良いものである。20世紀の社会歴史の視点も背景にきちんと書かれていてわかり易い。自伝と真実の見極めも行っている。
      ロンドンの貧民街の貧しい芸人の子に生まれ、父はアル中で早死、母は一時的に発狂、5歳から舞台に立ちコソ泥などをし、孤児院にはいる。芸人としてアメリカ巡業で見出され、チョビヒゲ、ダブダブズボン、山高帽、竹のステッキ、ドタ靴の浮浪人「チャーリー」の創造で、映画界で一世を風靡していく。      岩崎は隠された少女趣味を描く。最初の結婚は15歳のハリウッド女優、二度目は16歳の女優リタ、三度目は19歳の女性、最後は劇作家オニールの娘ウーナで18歳。最後まで添い遂げ73歳のとき8番目の子供を作る。この美少女好みがなければ「ライムライト」や「街の灯」「巴里の女性」は解らないだろう。
      江藤文夫は浮浪者の道化「チャーリー」と、人間疎外を告発する「黄金狂時代」「街の灯」「モダン・タイムス」「ライムライト」「独裁者」という映画作者「チヤップリン」の二人三脚を分析している。(『江藤文夫の仕事』全4巻・影書房
      岩崎も前者をサイレント映画時代のドタバタ喜劇やパントマイムと結びつけ分析している。また「チャーリー」からの脱出として20世紀の戦争、資本主義、全体主義アメリカ・マッカーシズム批判としての映画芸術に行き着くチャップリンを深く追求している。
      トーキーになって「独裁者」の演説がめちゃくちゃな意味不明の言語になり、最後にチャップリンの素顔の演説が7分続く場面の分析は面白い。40年住んだアメリカで1950年代非米活動委員会の召還を拒否、ヨーロツパに出た時追放され、作った映画「ニューヨークの王様」はアメリカ文明の告発だという主張も面白かった。
      チャップリン死後、映画「チャーリー」が制作され、「知られざるチャップリン」も公開された。まだまだチヤップリンは現代喜劇、現代映画に大きな衝撃を与えるだえおう。(講談社現代新書