高木仁三郎『いま自然を堂見るか』

高木仁三郎『いま自然をどうみるか』


13年前に増補新版が出版された本だが、福島原発事故以来読みたいと思っていた。いま新装版が出た。高木は東大原子核研究所助手をしていたが、反原発反核運動を長年行い2000年に死去した。この本は高木がギリシアから現代までの自然と人間の関係の根源を考え直し、エコロジー的な自由と解放の自然観を説いたものである。1986年チェルノブイリ原発事故、92年リオ「地球サミット」、97年京都での国連気候変動会議の地球温暖化問題が、この本の基盤にあり、21世紀の世界への展望にも成っている。
高木はいま自然観は、科学的・理性的なものと、感性的・身体的のものに、鋭く引き裂かれているという。二つの自然観は古代ギリシアのゼウスとプロメテウスの分裂から生じ、ヘシオドスが「正義の自然性」で統一しょうとしたと論じる。前7−8世紀イオニア自然学で自然を神話から解放したが、アリストテレスになるとロゴスの体系に組織され生き生きとした自然像は失われる。近代に人間中心主義が強まり、人間は自然を超えたものとし、操作・利用の対象とする「機械としての自然」になる。それは自然を数学的秩序による普遍法則で再構成された自然だ。
20世紀末に近代科学の自然像は宇宙に開かれた開放定常系の地球に、すべたの生物が共生しあう相互性をもった「エコロジー的自然像」が出てくる。自然と人間が相互主体的に行為する「民衆の自然」「自然と労働」が説かれるが、これは高木のもっとも強く主張するところだ。自然との根源的な結びつきは、人間の「内なる自然」と「外なる自然」がつながっているという「ナチュラリズム」の高木の主張になる。根源的転換がいま必要になっている現在、ぜひ読んでおく必要がある本である。(白水社