大久保純一『浮世絵』

大久保純一『浮世絵』
浅野秀剛『錦絵を読む』
 

浮世絵には多くの本があるが、歴史的視点で全体像を描いた客観的な本としてこの二冊はコンパクトでまとまっている。大久保氏は浮世絵の流れから、いかに作られ売られたか、さらに錦絵の技法のさまざままで解説してくれる。浅野氏の本は浮世絵のジャンル別に、美人画、役者絵、名所絵をそれぞれ詳しく説き明かす。
大久保氏の本はカラー版になっていて、多くの浮世絵が収録されていて楽しいが、歌麿北斎、広重だけでなく、幕末の歌川派の国芳、国貞、豊国が多く含まれ、その豊穣さがよくわかる。文化文政以後の浮世絵は、想像以上に構図、色彩ともに西欧絵画の影響が大きく、それがフランス印象派などに受け入れやすかったことがわかる。天保年間からはやった藍摺は、ペルシャンブルー(ベロ藍)といわれベルリンから輸入された化学顔料である。これが名所絵に使われ北斎「富獄三十六景」の「甲州石班沢」「神奈川沖浪裏」や広重「東都名所 領国之月」国芳「東都三ッ股の図」などの空、川海に使われ「青の時代」を作る。
大久保氏の本で面白いのは、重ねられた主題や隠された主題を浮世絵のなかに見るもので、イメージの重層を楽しむ「見立絵」や世相風刺など「やつし絵」を取り上げているが、私は江戸歌舞伎の手法だと思った。江戸芸術の一つの特徴である。古典や故事を当世風俗にし、当世の風刺が過去の時代に仮託される重層性がある。鈴木春信の「安陪仲呂」が吉原遊女の望郷姿で描かれたり、歌川国芳源頼光館土蜘蛛作妖怪図」は江戸幕府の風刺であったりする。
浅野氏の本で美人絵が当時の江戸美人コンテスト的番付に則ったブロマイド的似顔絵だったという解釈は面白かった。寛政5年に刊行された娘百人一笑や茶屋娘番付、土紋娘番付に書き留められた町娘10数人が錦絵に書かれたというから、現代タレント(AKB48など)の携帯待ち受け写真などと似たものがあり、役者絵もそうだつたろう。(『浮世絵』岩波新書、『錦絵を読む』山川出版社