都出比呂志『王陵の考古学』

都出比呂志『王陵の考古学』


 日本の前方後円墳や秦・始皇帝、エジプトのピラミッド、古代朝鮮の古墳、ヴァイキングの王墓など古代王陵を、考古学で比較した本で、面白い。世界的一般法則を求めるとともに、その差異も探究する「新しい考古学」の研究成果を取り入れている。都出氏によれば、モニュメント性の高い巨大王陵が造られるのは初期国家形成期で、王は神という神聖王権であり、権力の継承と誇示を意味し、造営のため巨大なタウンまであったという。王陵は、官僚機構、軍事組織、成文法、租税の整備という成熟国家に発展すると消えていく。
 おのおのの王陵の歴史的素描が面白く読める。日本の前方後円墳弥生時代の円墳や、方墳など多様な首長の墓の発展にあり、異なる墳形の共存の上に系譜と序列による身分制(都出氏は前方後円墳体制と呼ぶ)の成立が生み出したと見る。卑弥呼の墓は前方後円墳だともいう。箸墓古墳は有力候補だ。多様性の融合で生まれたが、同時に古代中国の祭祀儀礼技術(北枕の埋葬、銅鏡、朱の重視墳丘の三段築成など)を取り入れた。
 古代中国殷代の武官村大墓は地下宮殿で、殉死と犠牲死があり、魂魄思想・来世思想がみられる。秦始皇帝兵馬俑は驚くべき地下都市を明らかにしたが、造営のための都市(40年かかり、一番多いとき72万人動員という)も造られた。漢の馬王堆墓は神仙思想で彩られ、竪穴原理から横穴原理に変わる。
エジプトで階段式ピラミッド成立は王の太陽神という神格化にともなっているが、それが何故岩窟墓という「王家の谷」の集合墓に変わっていったかの分析も面白かった。一神教地帯には巨大王陵が成立しにくいが、ムガル帝国にタージマハルという王陵が何故出来たのかの話や、日本の明治、大正、昭和天皇の陵が、前方後円墳型のようになり、従来の火葬から土葬にどうして変わったかの分析も、現代王権論として考える必要を感じた。(岩波新書