ブレイク『ブレイク詩集』

ウィリアム・ブレイク『ブレイク詩集』


 ブレイク初期の「無心の歌」「経験の歌」「天国と地獄との結婚」が収められている。彩飾版画の独特の作者でもある。時はフランス革命時代、近代科学の「理性」よりもロマン的詩=想像力を尊ぶが、英国では無名のまま死んでいつだ。「無心の歌」は無垢で歓喜に満ちた生命賛歌である。幼い子の遊ぶ喜び、春、子羊、花を歌い、楽園がある。「日はのぼり、空はうららか。こころうきたつ鐘は鳴り、春をむかえる。空のひばり、やぶのつぐみ、森の小鳥、快い鐘のひびきにつれ、声はりあげてうたい、こだまする野べにはずむ子供らのあそび」「ああ 神様は喜びをわれらにわけ与え、われらの悲しみを打ち破らんとし給う、われらの悲しみが一つでも残るあいだ、神様はわれらのそばでなげき給う」無心無垢の喜びを歌う賛美歌のようだ。 
 だが「経験の歌」になると、圧制と不正で生命の自由が奪われ、喜びは失われ死の影がおおい、恐怖、ねたみが渦巻く苦悩の世界が歌われる。「人々の自己主義な父よ、残酷で妬み深く自己主義な恐怖よ、よろこびが、夜に縛られていては、青春と、朝との、おとめを生み得ようか」
 「天国と地獄との結婚」はこの対立を統合し、無心の歓びへと霊魂を救う力としての想像力が讃えられる。私はブレイクのこの詩に哲学者ニーチエを感じた。「力のみが生命であり、肉体から生する。理性は力の限界、あるいは埒である」「憤激せる虎は教育された馬より賢い」「知覚の戸が拭い浄められたなら万物はありのままに、無限に見える」理性よりも想像力を通して世界を変えていくロマン主義がブレイクの詩にはある。(平凡社ライブラリー・土居光知訳)