シラー『群盗』

シラーを読む(1)
シラー『群盗』

           ドイツ18世紀のシラーの22歳の戯曲処女作である。若者が理念的自由に価値を置き、不条理な虚偽な社会に反抗するため群盗になる。最後は「道義的責任」をとるため、自首し処刑される。
           シエイクスピアの「ハムレット」に影響を受けたといわれる。貴族の領主階級で、嫡子モールと異腹の弟フランツがいるが、弟が嫉妬と憎悪で、兄と父の間を引き裂き、兄の恋人を横恋慕する。父から義絶されたと誤解した兄モールは群盗を組織し、家父長的権力に反乱する。
     この群盗は「森の自由」を叫び、森を根拠地にして戦うロビン・フットや、後にシラーが劇作「ウイリアム・テル」に通ずる。現代のテロリストに通ずる「悪」だが、権力への復讐と自己規制があり、自らを自己犠牲にする精神をもつ。
 弟フランツが父を閉じこめ、兄の恋人に言い寄るための策略と野心は、シエイクスピア「リチャード三世」の謀略に匹敵する。だが罪に怯えて破滅していく。群盗の隊長モールは、最後に真相を知りこう語る。
「おう、何という愚かものだろう。このおれは、世界を暴虐の行いによって洗い清め、法律を無法によって正そうなどと誤り信じるとは。おれは、かくのごときものを復讐とよび正義となづけた。偏頗な党派心を常道の戻そうと企てた。」
だが破壊したものは、いまでも破壊されたものであり、傷つけられた法律は償われなければならない。社会の秩序と人権を恢復するためには、自己犠牲が必要と群盗を去り、自首に踏み切るのだ。この最後のセリフは「転向宣言」なのか。
そこには、シラーが重視した自らの道義的責任を、自由に決定するという理想主義があるのである。(岩波文庫久保栄訳)