森政稔『迷走する民主主義』

森政稔『迷走する民主主義』

森氏は、安倍政権時代の民主主義の迷走を、2009年の民主党政権時代に遡り検討している。政治思想的には、リバタリアニズム新自由主義に対抗して、有限な開かれた社会での民主主義を追求している。
民主党政権交代はどうして失敗したのか。森氏は、「政策中心」と「政治主導」の失敗の両面から検討している。政策はマニフェスト政治に現れ、政治主導は国家戦略室に象徴される。政策は、生活が第一や「コンクリートから人へ」のポスト物質主義的であった。マニフェストは筋が通っていたが、実現に混乱をもたらした。
こども手当、農業の所得保障、公立高校無償制も財源問題が解決されず、「事業仕分け」も財政支出削減。官僚支配打破が硬直化し、自己目的になり柔軟性を失った。
民主党マニフェスト政治から、強い政治的リーダーシップの強迫にとらわれ始め、官僚支配の排除や党内権力の一元化に向かい、小泉政権に相似して、熟議民主主義が、空洞化していく。生活の内実も検討されず恣意性にながれ、公共インフラを弱体化し、突然の消費税増税案が正しいとしても党内の熟議民主主義も軽視されていた。独裁化とバラバラ化が、末期政権に見られると森氏は分析している。
森氏は、民主主義政治とは何かで、①決断②熟議③調整④統治制⑤公と私のあいだ⑥参加と抵抗について、分析していて興味深い。
さらに、民主主義の思想条件では、ポスト物質政治の意義と限界を掘り下げ、原発開発と民主主義との関係まで論じている。さらに「知の変容」「ネット社会」と民主主義にも言及し、政治は言語が構成するという「構築主義」の限界・変質も考察している。
有限で開かれた社会の民主主義を提唱し、戦略的政治(成長戦略、集団的自衛権など)や、「敵―見方」の闘争的ゲーム政治を民主主義に反すると考えている。(ちくま新書