トーマス・ペイン『コモン・センス』

トーマス・ペイン『コモン・センス』

アメリカ独立革命のときのベストセラーであり、分離独立の小冊子である。歴史を動かした一冊の本である。フランス革命時代のシイエス『第三身分とは何か』やマルクス資本論』に匹敵する。煽動の書と見られがちだが、読んで見ると常識で書かれている。だがペインのレトリックの才能は凄い。
「おお、人類を愛する諸君、暴政ばかりか暴君に対して決然と反抗する諸君、決起せよ!旧世界の至るところが圧制に踏みにじられている。自由は地球上から追い立てられている。アジアやアフリカははるか以前に自由を追放した。ヨーロッパは自由を他人のように考え、イギリスは自由に立ち去るように勧告した。おお!亡命者を受け入れよ。そしてただちに人類のために避難所を設けよ。」
ペインという人物も面白い。英国の職人の子に生まれ、様々な仕事に就いたが落伍者になる。偶然フランクリンにめぐり合い、アメリカに移住し、独立戦争のときワシントン将軍の義勇兵になり闘う。独立後英国に帰るが、『人間の権利』を書き大逆罪で告発され、フランスに亡命し、ルイ16世処刑に反対し囚われ、アメリカのモンロー大使に助けられ、再びアメリカに渡りニューヨークで不遇の晩年をすごし72歳で死んだという。(訳者・小松春雄氏の解説)
    社会は我々の必要から生まれ、政府は我々の悪徳から生まれたという。もっとも安全を確保できる政府が、また最小の費用で最大の幸福をもたらすのが最良ともいう。その上で専制君主世襲制がいかに人民を虐げるかをいい、自由と幸福を求め、ヨーロッパの避難所は、英国から分離独立することを訴える。
    ペインは分離独立しても、アメリカは生産も貿易も利益がでて、大国になれる。人民主権の議会制度も論じている。ペインの特徴は、非暴力の交渉・和解では問題は解決できず、武装軍事戦争によるしかないことを唱え、自らも義勇兵になり、軍事力不足で敗北続くニュージャージーの戦いに参加したことだ。
    ドイツ・ヘッセン傭兵軍団にやっと勝つが、そのときワシントン将軍はペインの「アメリカの危機」の冒頭を兵士たちに朗読させた。「今こそ、人間の魂にとって試練のときである。(中略)暴政は地獄と同様に、容易に征服することは出来ない。しかし、われわれの戦いが苦しければ苦しいほど、勝利はますます輝かしいという慰めがある」
    ペインには啓蒙思想のような独創性はない。だが、その自立独行の独立主義の熱情と、経済的な功利主義的計算があり、英国の専制君主制の圧制への抵抗が強くある。勇気付けられる本である。(岩波文庫、小松春雄訳)