ローレンス『コーランの読み方』

ブルース・ローレンス『コーランの読み方』

    コーランを全部読むのは大変である。ローレンス氏は米国・デューク大教授でイスラーム学が専門で、中東問題にも詳しい。
    この本ではイスラーム教が創造される過程と、予言者ムハマッドへの神の啓示が詳しく書かれている。ローレンス氏は神の絶対性と、第一章「開扉」にある読誦を重視しており、「憐れみ溢れ、情け深い神の名において」をコーランの神の神性としている。
    さらに、草創期の注釈者たちとして、シーア派のサーディクと、スンナ派のタバリーが取り上げられている。サーディクがコーランの隠された意味に踏み込んで注釈するのに、タバリーがコーランに忠実に解釈していくという対比の手法が面白かった。
    中世におけるイスラーム思想の要でもあるスーィズム(神秘主義)の思想家イブン・アラビーの幻想的解釈と、神秘主義詩人ルーミーが分析されている。
    コーランには、信仰体系と祈祷など日常信仰慣行も多いが、同時に幻視に満ちた詩的な部分も多い。マホメットの啓示にも「夜の旅」など、幻想的な読誦詩がある。
    ルーミーは歌う。「頭も足もない 上も下もない すべて失われた この目くるめく旋回に」
    ローレンス氏は、近代におけるアジアでのイスラーム教近代化としてアフマド・ハーンと、神との対話を重んじた詩人ムハンマド・イクバールの真実を描いている。
     「近代学問の呪縛を解き放つ 誘惑と罠を取り払う こともなげに、神はすべてお見通し アブラハムのように、私は火の上に座ったのだ」
    ローレンス氏は現代では、人種問題の背景に黒人のイスラーム教受容を、イマームW・Dモハメットに触れている。
    また9・11テロのビン・ラーディンのジハードの指令に、コーランの防衛や聖戦の章句を多く引用する。サウジアラビアの指導層が腐敗し、アメリカ・イスラエル十字軍に従属していると攻撃する。
    コーランにはムスリム共同体を自衛し戦う章句もある。ローレンス氏はラディンの引用はジハードのみ拡大解釈し、コーラン全体の改悛、寛容に触れていないと述べている。
    ムスリム原理主義でもなく、アナーキズムにすぎないとローレンス氏は見ている。(ポプラ新書、池内恵訳)