添谷芳秀『安全保障を問いなおす』


添谷芳秀『安全保障を問いなおす』

      国際政治学の添谷慶大教授は、安全保障をナショナリズムと一国平和主義から脱する第三の道を、提示しようとしている。大国外交を繰り広げる米中の狭間で、「ミドルパワー」として生きる日本外交を模索している。
      添谷教授は、戦後レジームは「憲法九条―日米安保体制」に70年間とらわれてきたことを、戦後歴史のなかで明らかにしようとしている。
      冷戦以後の1990年代には、国際関係の変化による一国平和主義から抜け出し、国際主義の覚醒がなされた。「湾岸ショック」からカンボジア和平の貢献に進み、ASEAN地域国際フォーラムの誕生につながる。日米安保は、新ガイドライン決定と、周辺事態法制定に進む。9・11テロから、日米同盟はグローバル化しようとする。
      ところが、添谷教授によれば、国際主義から自国主義外交に転換したのは、小泉政権民主党政権―安倍政権という21世紀の外交政策からだという。それが2015年成立の一国主義の集団的自衛権の「安保法制」にいきつくのである。
      国際主義から自国主義への転換は、戦後レジームからの脱却でなく、「九条―安保体制」に引き戻された「内向き」の改革にすぎないと添谷氏いう。それが中国、韓国との軋轢の結果でもある。新しい展望はないのである。米・豪・韓の三国の安保による集団的自衛権に比べても、憲法のしばりで、あいまいな中途半端な幻想的な欺瞞になっている。国際連合集団的自衛権参加という国際主義も無視されている。自国しか考えていない。
      添谷教授は、「九条―安保体制」からぬけだすには、国際主義による憲法改正が必要という立場である。中国包囲網でなく、米中大国の狭間で日本は「ミドルパワー」として、第三の道として、豪・韓・日の安全保障を発展させ、それに中国東南アジア諸国も加わる「東アジア安全保障協力ネットワーク」に発展させる。
      集団的自衛権は、国連憲章第51条の「国債の平和及び安全」に限定することを、改憲9条に明記し、現憲法の国連平和主義を発展させるのが、よりよい改憲と私は添谷氏の本を読み思った。(NHKブックス)