赤坂憲雄『岡本太郎という思想』

赤坂憲雄岡本太郎という思想』


大阪万博の「太陽の塔」、東京・渋谷駅の「明日の神話」とい岡本太郎の作品は戦後のモニュメントとして、原爆や戦争の死と、生の再生の芸術作品として力強い躍動感を示し今も残されている。その岡本の思想を、民俗学・日本思想史の赤坂氏が肉迫している。1930年代パリでピカソや思想家バタイユ、人類学者モースなどの思想の影響を受けた岡本が、戦後日本で前衛芸術作品を創作しながら、その思想を言葉で書いた作品がいま再評価されつつある。
岡本には世界がグローバル化し西欧的一般化や平板化に対する危機感があり、西欧美学を超えた異質・特殊な生命力への畏敬があった。伝統を形式と捉えず民族の生活の生命力と考え、伝統は創造で生きるとも見た。岡本が縄文土器文化に引かれていったのは、奔放な躍動感、無限の永遠回帰性、非左右対称性、破調として、生命の生活とつながったダイナミズムからだろう。森の民としての古代ヨーロッパ・ケルト文化の組紐文とユーラシア大陸を通じて共通していると考えたくなる。
赤坂氏が指摘していて面白かったのはパリ時代、コジエーブのヘーゲル講義を聴きバタイユらと「対極主義」の思想を考えた点である。ヘーゲル弁証法を否定し、弁証法の「正」「反」「合」による統合を拒否し、「正」と「反」の対極主義を肯定する。現在の瞬間に血だらけになって対極の中に引き裂かれて生きる。それが「爆発だあー」なのだ。対極主義は「否定的媒介」により対立が鮮明にみえ、自己の生がより明確になる。西欧と日本、伝統と創造、聖と俗など。芸術では、静と動、平面と立体、抽象と具象、愛と憎、悲劇と喜劇など無限に続く。日本文化では縄文と弥生、伊勢と熊野・出雲、祖霊信仰と自然信仰など。
赤坂氏の本は、岡本の万博の思想まで踏み込んでおり示唆されることが多かった。岡本太郎はまだまだこれから読み解かれる人だ。(講談社