袴田茂樹ら『現代ロシアを見る眼』

木村汎袴田茂樹・山内聡彦『現代ロシアを見る眼』


ソ連崩壊してからロシアのゼロ年代つまりプーチンの10年を描いた本である。筆者たちの結論は「奇妙なハイブリット(混合体)」だという。「政治体制としては家父長的専制、官僚的権威主義自由民主主義。経済的には、国家資本主義、市場経済、賄賂やコネがまかり通る地下経済。外交上は、欧米諸国との協調と反発―。このように通常は容易に両立するはずのない諸要素の同時存在である」とこの本では主張している。プーチン主導の10年は19世紀帝政、20世紀ソビエト社会主義、21世紀現代が共存しているという。
プーチンとメドベージェフの二頭政治(タンデム体制)も近代化や大国主義を目標としている共通性はあるが、保守とリベラルの共存とも考えられる。エリッインからプーチンへの政権移譲も不透明である。ロシアは資源大国で、プーチンの10年は石油・天然ガスの価格高騰期に合致し、その点は支持を得た大きな原因だった。プーチンが貧しい家庭環境からのし上がりKJBで出世して大統領に登りつめる物語や、厳しい自己規律と内向性格の分析は面白かった。混乱や無秩序から、「強い国家」を求め、再中央集権化、翼賛議会化、マスメヂアの制圧、チェチェン戦争、新興財閥(オリガルヒ)の弾圧と国家移管、グルジアウクライナへの攻勢による新帝国主義などロシアは変わりつつある。
新しいエリート・シロビキとは、プーチンを囲む治安機関出身者、連邦保安庁内務省国防省などの現役や退役した人々を指す。個人的忠誠や長年の親交から生まれている。ロシア政治指導者の4分の1がシロビキという学者もいるが、その理想は旧ソ連帝政ロシアを合わせた大国復活だと山内氏は指摘している。ソ連時代の党官僚らのノーメンクラッーラを、私は思い浮かべた。豊富な資源からの余剰(レント)経済がかえって利権経済になり、国民生活の基盤を発展させないのも皮肉である。今後ロシアはどうなるのかを考えるヒントになる本である。(日本放送出版協会)