松本仁一『アフリカ・レポート』

松本仁一『アフリカ・レポート』


08年出版のアフリカの現状をジャーナリスト・松本氏が綿密な取材を基に書いている。
この本ではジンバブエ南アフリカ共和国ウガンダ、ナイジエリア、ケニアが中心に描かれている。つまり政府幹部が利権を追い求め、国づくりが遅たり、初めから国づくりを考えていない国家を対象にしている。特にジンバブエムガベ大統領独裁政権が腐敗と政策失敗で農業が崩壊し、インフレが起こり貧困のため国外脱出が生じている報告は迫力がある。また人種隔離体制から解放された南アフリカが政権の腐敗と治安の悪化をレポ^トし「公の欠如」がいかにアナーキーな状態に陥るかを述べている。さらに欧米植民地の後に中国人がいかに進出したかや、パリや東京・歌舞伎町まで国から逃げ出稼ぎするナイジェリア人まで追跡している。
反植民地闘争などで国家として独立したが、政権が国民の富を奪い貧困にあえぐ姿をよく捉えている。この本の特徴は「国の独立」から「人々の自立」の新しい動きに焦点を合わせ希望的な将来を描こうとしていることだ。自分たちの生活を自らの努力で変えていこうという動きだ。ジンバブエの農業NGOオラップ、シオラレオネ内戦の兵士たいが始めたバイクタクシー、セネガルの漁民が経営するアフリカ最西端の生牡蠣産業など。特にジンバブエのドリップ式灌漑と小家畜による零細ビジネスが、農業生産が崩壊した国で農業復興の光になりつつあるという点は考えさせられた。最後に日本ODAの円借款の援助について松本氏はこういう。「これまで30年間、いかに多くのアフリカ政府指導者が援助国からの借款を私物化し、債務のツケが国民に回されてきたか。」だから政府でなくアフリカの人々を対象とした援助が望まれる。(岩波新書