宮本正興ら『新書アフリカ史』

宮本正興松田素二=編『新書アフリカ史』


新書といっても600ページあり研究者16人が執筆し、古代から現代までの歴史を集大成している。「歴史なき大陸」といわれたアフリカが、口承伝承も含め激動の歴史をえてきたことが浮かび上がってくる・この本の特徴は国家という近代原理の各国史を避け、地域(川世界―ザイール川、ザンベジ・リンポポ川、ニジェール川ナイル川)によって捉え、イスラム、ジュラ、スワヒリ商人の地域間交流や外世界交渉としてトランス・サワラ、インド洋、大西洋交渉史にまでふみこんでいて。面白い。もちろん半分は近代ヨーロッパの植民地史や独立史に割かれている。
私がアフリカ史に熱中したのは1960年代であり、そのころエンクルマやルムンバ、サラザールの著著を読んだ。パン・アフリカニズムに感動したが、80年代以後の「絶望の大陸」(内戦、飢餓、独裁、経済破綻、エイズなど)がどうして独立後にアフリカを襲ったのかを知りたいと思っていた。この本でもそこに踏み込んでいる。植民地後遺症の視点だけでなく、また民族(部族)対立だけでなく、総合的視点で解こうとしている。
いまエジプト革命が起こり、ヨーロッパ近代市民社会のポジとネガが21世紀アフリカ社会の変革とつながっている。また南部スーダンの独立は、かつてのコンゴ動乱アンゴラ紛争、ビアフラ戦争と同様な資源と部族対立が絡んでいる。53国がいまあるアフリカが、統一アフリカを多元的で柔軟な部族アイデンティティを尊重しながら、いかに形成するかが21世紀の世界を決める。精神の非植民地化としてこの本では、南アフリカ公用語の英語、アフリカーンズ語にズールー語、コーサ語など9語を加えた多言語を評価し、さらにアフリカ地域共通語(リンガフランカ)としてスワヒリ語、ヨルバ語圏の形成も今後のアフリカを占うとしている。同感だ。アフリカ史は従来の世界史の概念を変える。
川田順造『アフリカ』(朝日新聞社刊)で川田氏はこう指摘していて考えさせる。「従来の絶対年代に基づく編年史、出来事史の観点からすると多くの資料上の欠落や制約をもつアフリカの歴史が、世界史のあり方に対する根源的問いを含んでいる」(講談社現代新書