ジムソン『ゴシックの大聖堂』

O・フォン・ジムソン『ゴシックの大聖堂』


フランスに旅行しシャルトル大聖堂を見たとき、西欧中世の文化に驚いた記憶がある。ジムソンの本は12世紀のサン・ドニ修道院とシャルトルの二つを中心に、建築様式は勿論、宗教、哲学から政治、経済にいたる大聖堂の思想を描いていて読み応えがある。例えばシャルトルのステンドグラスの寄進者が肉屋やパン屋など同業組合であることから、祭りと定期市の相互関係に至り「商業と宗教」のかかわりを、マックス・ウェーバー的視点で論じている。聖なる人格者に対する贈物=寄進が中世経済のある一面を現している。
この本の核となっている思想は「尺度と光」にある。光の形而上学幾何学的秩序による天の宮居としての宇宙的調和のゴシック大聖堂だ。シャティヨンの数学的美学を讃える詩「完璧な尺度と数と重さに従って。見えざるものを介して、理性が人間をまっすぐ上方へ引き上げて」幾何学的比例と音楽的比例の調和。黄金分割の完全な比例で作られたゴシックは「凍れる音楽」と言われ「シンホニー」に類似する。数学的理性が神秘主義と結びつく。幾何学的に調和した秩序の夢。
光の形而上学プラトンイデアの放射と捉えられる。ジムソンはゴシックを光の透明体として捉える。ステンドグラスの多用は光輝性が幾何学的秩序より重要視されていたとジムソンは考える。中世のプラトン形而上学では光は自然現象のうちもつとも高貴で非物質的であり、純粋形相と考えられ、超越的実在を照らすロゴスと見られた。暗闇を照らす光の放射がゴシック大聖堂の本質となる。光は近代印象派にも、近代物理学の量子論アインシュタインの相対性原理まで西欧思想の基盤を形づくるのではないのかと、この本を読みながら思った。(みすず書房・前川道郎訳)