NHK取材班『アフリカ』

NHKスペシャル取材班『アフリカ』

ゼロ年代にアフリカに新しい風が吹き始めた。この本はグローバリゼイションと豊富な地下資源、高度成長、貧富の格差、民衆の小規模な地場産業の努力、多民族(部族)共存、虹の国(南アフリカ)の努力、地域共同体への始動などを扱っている。取り上げた国は、東アフリカ共同体が未来に期待されるエチオピアケニアウガンダルワンダ、また南部アフリカ開発共同体を目指すタンザニアジンバブエ南アフリカ、ボツアナ、ザンビアである。グローバリゼイションが「自立」の追い風になるのかが焦点になっている。この本では「アフリカン・ドリーム」「資本主義最後のフロンティア」という視点である。それが正しいかは今後を見ないとわからないが。
IT革命による通信システムの変化は、空間が広いアフリカでは影響が大きい。ケニアのマサイ族が携帯電話を駆使し固定電話が1%なのに携帯が」1900万人以上、普及率50%には驚く。携帯電話競争はいまアフリカを席巻しつつある。中国企業エチオピア全土の携帯基地建設で全国通信ネットが作られ、中国はいまや「ビッグ・ブラザー」と呼ばれる。ツチ族フツ族の内戦で数百万人が死んだルワンダでは、いまや経済成長率8%の奇跡を達成し、その原動力は亡命者の帰国から始まったルポも面白かった。タンザニアやボツアナの金、銅、ニッケルなど非鉄金属の開発は、中国の参入も含めアフリカを幸福にするのかという調査報道も興味を引く。
西欧植民地主義が人工的に作り出した「人工国家」を超え、国境線を越え、アフリカの人々は縦横無尽に結びつこうとしている。広い地域共同体と部族共同体の共存は可能か。だが、この取材班チーフ・プロデューサー日置一太氏は、決して楽観視できないとも言う。アフリカを世界経済の舞台に押し上げる力が、市場原理の従来の世界を補完するだけなら、貧困の大陸にさらに格差を持ち込み政治的不安定を引き起こす。
だがアフリカが21世紀に本当の自立に向かい、西欧的国民国家を超える道を歩み始めているとも読める。(新潮新書