小山勉『トクヴィル』富永茂樹『トクヴィル』

富永茂樹『トクヴィル
小山勉『トクヴィル

このところフランスの政治思想家トクヴィルの再評価が進んでいる。この2冊はトクヴィルの思想に取り組んだ本だ。もう一冊、宇野重規トクヴィル 平等と不平等の理論家』(講談社)があるが残念ながら読めなかった。いまトクヴィルが注目されるのは、民主主義社会の停滞感や、大衆消費社会の病理現象、平等願望の行き詰まり、またポピュリズムという多数の圧制、「民主的な専制」という矛盾などがあるからだと思う。
 富永氏の本は革命後の19世紀フランス社会の背景をもとに、トクヴィルの伝記も含めて、その思想を社会学的に解明している。トクヴィルの生きた時代は、7月革命、2月革命、ルイ、ナポレオンの第二帝政という激動の時代だった。アメリカにも渡り「アメリカの民主主義」を書き、民主主義社会の現状とその行く末を分析している。民主主義とは平等への愛着であり、それが「物質的安楽」の平等の追求への競争になり、他者との比較で常に相対的不満を持ち、羨望と憂鬱の社会心理を呼び覚ます。画一的社会はわずかな不平等に耐えられなくなる。個人は塵と化した剥き出しの原子的なばらばらな「個人主義」に内向し無関心が広まる。そこに「民主的専制」が忍び寄る。富永氏は人類世界・国家と剥き出しの個人の中間領域が空っぽになるというトクヴィル思想を「部分の消失」といい、そこを綿密に分析して面白い。「部分」とは家族、地域社会、各種の結社、地方自治体などをいう。
 小山氏の本でも、民主的専制を、国家の後見的権力と政府依存症として考え、トクヴィルに寄りながら、三つのそれを克服するかたちを、「地方自治体、陪審制、アソシアシオン(共同結社)」として詳しく述べていて、読み応えがある。(小山勉『トクヴィルちくま文庫・富永茂樹『トクヴィル岩波新書