長田渚左『復活の力』

長田渚左『復活の力』

かつてトルストイ『復活』という小説を読んだことがある。青年貴族がキリスト教に帰依し、自己の罪を懺悔して希望の復活を果たし再生する。この本は「絶望を栄光にかえたアスリート」という副題があるように、スポーツ選手たちがケガという挫折からいかに再生するかの物語である。復活は、自己をいかに忍耐強く希望を失わずコントロールしていくかにかかってくる。自己の復活力への信仰と、医師やトーレナーというスポーツ医科学のサポートがそこにはある。
ケガや病気で絶望に陥った有名スポーツ選手8人のインタビューを中心に纏め上げたノンフィクションだが、辛い思い出をあまり語りたくない選手から綿密に取材した長田さんに敬服する。8人それぞれ面白い。私はフィギュアスケート高橋大輔プロ野球選手村田兆冶、体操選手池谷幸雄、プロ車椅子バスケ選手安直樹に感動した。復活力が凄いのはプロボクサー浜田剛史である。あまりのハードパンチャー浜田は左拳を4回も骨折し埋め込んだプレートを「治すのは自分の力」と除去手術し、右拳を鍛える。厳格な日常生活を送る。だが世界選手権直前に膝の半月板損傷になり、緊急手術をする。だが世界最強というボクサーを倒しジュニアウェルター級王者になる。一時もう終わったといわれた浜田がいかに復活するかが、禅修行者のように描かれている。
再起不能と思われたマサカリ投法村田投手が、右肘靭帯の自家移植手術をアメリカで受け、サンデー兆冶として復活する執念は、マサカリ投法を生み出す苦労とともに、人間は自己の力の鍛え方で潜在力をいかに引き出すかの典型でもある。世界選手権や五輪をひかえてケガをした高橋選手や中野選手はじめ復活した選手が、自己の肉体を改造し以前よりも理想の身体にしていくのも凄い。読んでいて希望と生きる力を与えてくれる本である。(新潮新書