村山斉『宇宙は何でできているのか』

村山斉『宇宙は何でできているのか』
副題に「素粒子物理学で解く宇宙の謎」となっているというように、村山氏は宇宙を考えるとき「ウロボロスの蛇」をイメージするという。広大な宇宙という頭が素粒子という尾を飲み込んでいる。素粒子の働く力が分かれば、宇宙の存在が分かり、その逆もある。私は朝永振一郎『マクロの世界からミクロの世界へ』(著作集9・みすず書房)を思い出した。朝永の本には村山氏の取り上げている「対称性の破れ」を扱った名作「鏡のなかの物理学」も含まれている。だが素粒子物理学は朝永時代よりますます進んだ。村山氏の本ではノーベル賞受賞の益川・小林理論や重力・電磁気力・強い力・弱い力の統一理論さらに興味深い暗黒物質反物質まで素人むけにやさしく講義されている。といつても対称性の破れや益川・小林理論はなかなか難しい。
 私が驚いたのは、星や地球など宇宙で理解できた原子は4・4%に過ぎず、宇宙のエネルギーの23%をしめる暗黒物質は星や銀河を作るもとなのに、未知の素粒子だということだ。それを突き止めるため小柴昌俊氏で有名になったカミオカンデや巨大加速器施設がいまも稼働している。さらに宇宙の膨張を後押ししている暗黒エネルギー(全体の73%を占める)も分かっていないという。これが分かれば宇宙のビックバンや終末の謎も解明される。究極の素粒子を探していくと反物質暗黒物質が出てくる不思議。謎が深まる。密室推理小説より面白い本である。(幻冬舎新書)