鈴木忠志『演劇とは何か』

鈴木忠志『演劇とは何か』


鈴木氏は劇団SCOTの主催者で、利賀フエスチィバルを主催した1980年代の日本小劇場運動を代表する演出家である。この本を今読んでも学ぶところが多い。鈴木氏によれば、演劇とは書かれた言葉としての戯曲を肉体をともなった音声言語に変換し、その人間の内部に起こったことを見せる場に成り立つとする。語り=騙りというわけだ。俳優とは、「舞台的身体感覚を遊ぶ人」である。と同時に演劇は集団的共同作業であり、他者との異質な関係性を創造するそのためには、場としての劇場が必要と言う。演劇とは劇場の創造でもあるのだ。
鈴木氏はこう書く。「日本の現代劇は内容中心主義、とくに戯曲中心主義になったために、演劇行為の中に占める『場所』の重要性を軽視していた」。演劇行為が地域を含んだ場所づくりに有効に左右しなかった。そこから、東京一極集中は中央を相対化する視点を失い、同質性と異質性の関係の深化という演劇性を喪失したという。
 鈴木氏はギリシャ悲劇の演出も手がけたためか、歌舞伎や能といった伝統演劇にも学ぼうとしており、近代の新劇に対して厳しいのが、面白かった。新しい身体感覚としての俳優の訓練も伝統演劇の「型」のルーティン化は別として、取り入れようとしているのは、近代演劇の内面心理重視への批判からだろう。(岩波新書