渡辺靖『アメリカン・デモクラシーの逆説』

渡辺靖アメリカン・デモクラシーの逆説』


アメリカ研究は難しい。群盲象を撫でるになりやすい。親米・反米の価値判断は論外としても、視点の置き方で多様になる。たとえば、仲正昌樹アメリ現代思想』では、リベラリズムに重点を置いているし、会田弘継『追跡・アメリカの思想家たち』ではネオコン思想に重点が置かれている。渡辺氏の本ではアメリカの自由、多様性、民主主義に、いまどのような転倒(逆説)がおきているかを、フィールドワークと学問研究に足場をおき、オバマ時代も含めわかりやすく書かれている。
 ニューオーリンズ再訪では、ハリケーン被災後の現地に貧困や人種差別だけだはない政治への不信感と他者への恐怖心という負の感情を渡辺氏は見ている。1970年代以後の小さな政府、規制緩和、民営化、自己責任という「超資本主義」のもと、人口妊娠中絶、銃規制、同性婚安楽死、胚研究などの「文化戦争」が争点になったのも政治逆説という。恐怖にがんじがらめになった自由として「ゲーテッド・コミュニチィ」には驚いた。富裕層がゲートをつくりセキュリティのため警備員でかため生活しているというのだ。「新しい中世」だ。
 政治的民主主義は空洞化していく。ロビイストなどによる法人化する民主主義や、マーケティングの論理でゲーム化する選挙戦、それに包摂されるジャーナリズムなども興味深い。他人の心身まで規制し監視ていく国家主義、多様性と市場主義、外交の二重基準ダブル・スタンダード)などもアメリカが持っている負の問題だ。自由、多様性、民主主義は、国家管理の下にあれば、簡単に逆転できる。この本はCIAの盗聴問題の以前に書かれた。
 だが渡辺氏はアメリカの民主主義に未来を見ている。(市場原理主義が制覇しなければだが)また21世紀のグーロバリズム時代におけるアメリカのあり方が、世界を左右することも見落としていない。考察に富むアメリカ論である。(岩波新書