持田季末子『絵画の思考』

持田季未子『絵画の思考』

持田氏は「抽象具象を問わず絵画固有の意味とは、線、色、面、形態などでできた『形の意味』」と考え、最初からヴィジュアルな表現の実践であり、繊細で直覚的な思考という。この手法でモンドリアンからマーク・ロスコの現代抽象画を分析して成功している。モンドリアンが白の二次元の面に水平垂直の直線をアシンメトリカルな均衡をつくりだすが、持田氏はそれを静止と運動、均衡と不均衡、不安定と安定が速やかに交替し止まらぬ「動的均衡」と見る。電子的画材の先駆けともいえる。
ロスコは日本でも川村美術館にロスコルームがあるが、それに取り囲まれると形而上学的感情、宗教的瞑想、宇宙的情念をかもし出す。赤や黒、緑の濃淡のムラと色相の緩慢な変化が、更新され反復される無限感が感じられる。持田氏はそれを「雲のドラマ」として捉えているのが、面白い。
村上華岳晩年の柳と山の連作に線の美学を見て、線の構成が音楽的リズムで運動していると指摘する。和紙の繊維がもくもくした線の繊維のような岩肌を描き、紙の素材が線
になる。私は「松関石門図」や「巌頭黄昏」「巌山松樹之図」という華岳の絵は、抽象表現主義にみえる。モネ論も面白かった。水を光の鏡という見方や野性的油絵具の線描が、全体と部分の等価性を表すなど。モネは抽象絵画の境界まで晩年はきていた。
持田氏の「絵画の現象学」の批評は現代美術を理解するために重要だと思う。(岩波書店