ホセ・ドノソ『ラテンアメリカ文学のブーム』バルガス=リョサ『緑の家』

ホセ・ドノソ『ラテンアメリカ文学のブーム』


この本が面白いのは1960年代にラテンアメリカ文学ブームの渦中にあつたチリの作家ドノソの証言だからだ。「1960年代の波瀾に富んだ小説の国際化と私は行動を共にしてきたという気持ちが強く」とドノソも書いている。ガルシア・マルケスやバルガス・リヨサ、フェンテスなどの出会いや自分の作家活動が渾然一体となって書かれている。ドノソ文学の内幕も分かる。
 ドノソ世代の文学には「固有の文学的父親が不在だった」という。第一世代といわれるアルゼンチンの作家ボルヘスは限られた文化・社会エリートしか受け入れられたにすぎず、第二世代のマルケスリョサたちには共有されていなかった。おまけにブームを担った世代はスペイン語でかかれた国際化された文学であり、パリやバロセルナなどヨーロッパに根無し草的に滞在し、認められたコスモポリタン的存在が、南米の土着性と融合したところに新しさがあるとドノソはいう。だしかにその豊かな物語性はラテンアメリカ的であり、文学的手法はジョイスや内的独白、シュールなど20世紀西欧前衛文学を取り入れていた。魔術的リアリズムバロック的手法、ルポルタージュ的手法、などはラテンアメリカ文学の特徴になっている。
 この時代はキューバカストロゲバラキューバ革命の時代に相応する。ドノソは、ブームの終焉を71年の「パディージャ事件」に置いている。この事件はキューバの詩人パディージャが反革命的であると批判され、詩人の投獄・自己批判に発展したものである。その是非はともかく、この時代の小説の芸術的祝祭がよく描かれており、その内2人がノーベル賞に輝いている。このブームは20世紀文学史に残るだろう。(東海大学出版会・内田吉彦訳・鼓直解説)