速水健朗『フード左翼とフード右翼』

速水健朗『フード左翼とフード右翼』

  面白い本だ。政治意識を「食」の在り方で論じている。速水氏は食のマトリックスを横軸に「地域主義」と「グローバリズム」をとり、縦軸に「健康志向」と安さ・量の重視の「ジャンク志向」を置いて見る。
  速水氏によると、フード左翼は、「地域主義」+「健康志向」に位置し、地産地消ベジタリアンスローフード有機農業、マクロビオテック、ミネラルウオター、道の駅、ビーガンなどが入る。
  フード右翼は、「グローバリズム」+「ジャンク志向」であり、コンビニ弁当、牛丼つゆやく、ファーストフード、遺伝子組み換え食物、冷凍食品、栄養ドリンク、B級グルメ、ジロリアン(ラーメン)が入るという。
  速水氏が、「食」の消費活動も、政治的行為だと見ているのが面白い。いま日本社会は、食で分断されているともいう。フード左翼は、60年代のヒッピー対抗文化から始まったが、都市の上流中産階層が主流で、農業重視も消費活動に還元されてしまい、スピリチュアルな方向に行きすぎ「魔術化」するという。また遺伝子組み換え全面否定というネオ・テクノロジー革新否定が強いとも見る。新自由主義的な面もあると分析している。
  フード右翼は、「食の民主化」がある。庶民が食べられなかった寿司やステーキがチェーン店で平等に食べられるし、ラーメン二郎など安価で食べられる。コンビニやファーストフードで、いつでも安く「食」が食べられ、産業化が進んだ時代の食を象徴していると、速水氏はいう。安全・グルメよりも、カジュアルさと手軽な安易さが求められる。
  速水氏は、この本でフード左翼を多く扱っており。フード右翼が十分に分析されていないのが惜しい。また「地域主義」+「ジャンク志向」や、「健康志向」+「グローバリズム」(スタバだという)ももう少し分析してほしかった。また遺伝子組み換え植物の影響について楽観的であり、食料危機や環境破壊の阻止に必要だというのも、気になった。
  今後の「学校給食」「病院・福祉食」の「セントラルキッチン方式」や、高齢者の「宅配フードサービス」の速水氏の見方も面白かった。それが「食の全体主義」または「食の社会主義」にいきつくのかどうかも、将来の重要な問題だと思う。(朝日新書