ドーキンス『進化とは何か』

R・ドーキンス『進化とは何か』

個体は遺伝子が自己複製する乗り物に過ぎないという『利己的な遺伝子』を書いた生物学者ドーキンス氏が、ファラデーの『ロウソクの科学』にならい、進化論を少年少女向けに講義したものである。高度な内容をやさしく、200点以上の写真とともに提示していて、名講義である。
    生命は、宇宙の中で「進化」というゆっくりした過程を経て、微々たる違いが積み重なり、生物種の相違が育つことから講義は始まる。進化の時間のスケールの長さと、すべての生命体が一つの祖先から由来し、適応して生き残ってきた我々の生命の幸運をドーキンス氏は述べる。
昆虫や、タコ、さらに人間の脳という化学工場の進化(脳内にバーチャル・リアリティを構築出来る能力)が、ジガバチの空間認識の写真と共に説かれている。
    次に人によりデザインされたものと、自然選択でデザインされたように見える「デザイノイド」の違いを論じ、食中植物やシロアリの巣、ナナフシなどのカモフラージュから述べる。自然選択の非偶然性をコンピュータプログラムで説明したり、人為選択をキャベツ、犬、ハトで示したり、収斂選択までわかりやすく分析している。
    眼や翼の進化は、最初から完成されたのではなく、1%の眼でも、半分の翼でも生存競争で有利であれば、漸進的進化をしていく説明も、おおくの写真で説得的であった。人間中心の視点を捨て、象は巨大な自己複製ロボットだと説き、人間もDNAで創られた自己複製の機械だというドーキンス理論も、方々に散りばめられている。
    最後に訳者の吉成真由美氏によるロングインタビューが掲載されている。面白く読めるし、ドーキンス氏の科学論が良くわかる。問題の「中立進化説(木村資生説)」や、性選択説、さらにグールドが唱えた「断続平衡説」のドーキンス氏の立場が良く分かる。またアメリカで根強い聖書の創造説や、ドーキンス氏の「神は妄想である」の一端にも触れられている。(早川書房吉成真由美編訳)