ディアク『科学は大災害を予測できるか』

ディアク『科学は大災害を予測できるか』

    今日は阪神淡路大震災から20年である。阪神以後の地震予測は、活断層の評価は進んだが、四分の一はデータ不足で、発生確率は不明のままだという。地表にずれが現れない大地震や、地表で確認できる長さが短くても大地震を起こす活断層の、評価の精度自体は低いという。(「朝日新聞」2014年1月15日)
    カオス理論と天体力学の専門の数学者・ディアク氏は、津波地震、火山、ハリケーン、気候変動、小惑星の衝突、金融危機、ウィルスのパンデミックという大災害を、科学はどのくらい予測が出来るかを考察している。防災の教育にも重要な本である。カオス理論では、初期条件がわずかに変わっただけで、おおきな変動をもたらすから長い期間の予測は難しいという。
    ディアク氏は、地震をはじめモデルの精度が低い現象は、漠然とした予測しかできないという。地殻プレートの正確に位置も移動のプロセスがわかっていないからだ。この本でもゲラー東大教授の地殻構造運動がカオス現象だから、統計以上の予測しか出来ないという予測懐疑論を取り上げている。
    だが、GPS(全地球測位システム)の発達により、地殻のデータなど厖大なデータが蓄積されるなど、今後の技術の発達で予知は可能になる希望もある。ディアク氏は、津波襲来の時期は正確に予測できないが、警告ができるようになった軌跡を辿っている。火山やハリケーンも、数式で記述できる段階にきつつあるとも言う。その予測科学の苦闘の歴史は読みがいがある。
    気候変動の未来の予測にも、科学者に一致した理論は確立していないが、温室効果で気温上昇は一致しているという。ディアク氏が、もっとも予測しやすいのは、天体の運動で、ニュートンの「n体問題」による軌道計算である程度わかる。小惑星観測プロジエクトの発達も前進している。だが、小惑星や彗星はデータ不足や重力以外の影響をうけやすから、正確な軌道計算は難しくなる。
    金融危機パンデミックは、人間の対応の自由意思が介入するから、予測はさらに難しくなる。モデルの構造がはっきりわからないと、時系列データを、「カタストロフィ理論」や「複雑系理論」を使って解析しても、予測は難しいのだという。(文春文庫、村井章子訳)