NHK取材班『福島第一原発事故7つの謎』

NHKスペシャル「メルトダウン」取材班『福島第一原発事故7つの謎』

    福島原発事故のような巨大技術事故が起きた時、人間組織はどう対応していくのか。NHK取材班が総力を挙げて、500人の関係者取材、政府事故調、東電吉田調書、東電極秘メモ、テレビ会議などで、2014年12月まで行った調査報道の傑作である。
    この本の特徴は、原発事故のときの7つのいまだ解けない謎を解明しようとしている点にある。今後の検証のためにも重要な問題が、多くの情報から浮かび上がってくる。第一の謎は、1号機の冷却機能喪失は、なぜ見逃されたかである。津波による電源喪失から8時間あまり、吉田所長らは非常用冷却装置(復水器)が動いていたと思い込んでいた。この取材で4回気がつくチャンスがあったという。
    中央免震塔と中央制御室の情報共有がうまくいかず、アメリカと違い非常用復水器を40年間動かしてこなかったための判断ミスなどが指摘されている。第二の謎は、格納容器から蒸気を抜き圧力を下げる「ベント」実施がなぜ大幅に遅れたかである。
    放射能という壁のなか、「決死隊」まで繰り出したが、水素が充満し爆発した。それは第三の謎である吉田所長が死ぬ前残した「ベントは本当に成功したのか」の言葉の解明に繋がっていく。ベントはなされた。事前に予測された放射性物質が大量放出されたという技術的欠陥は見つかったが、まだメカニズムの詳細は明らかにされていない。
    第四の謎は、爆発しなかった2号機で放射能大量放出が起きたのはなぜかである。格納容器に放射能を閉じ込める技術の困難さが指摘されている。第五の謎は、消防車が送り込んだ400トンの水はどこに消えたかである。消防注水は奇策だった。注水は45%は原子炉に流れ込み、55%が復水器へ流れていた。75%が原子炉に入っていれば、メルトダウンは防げたという。
    第六の謎は、緊急時の減圧装置が働かなかったのはなぜかである。格納容器内の減圧装置の安全弁が、蒸気の圧力で閉じてしまう技術的矛盾があり、5号機ではその弁を開けるのに成功していたのに、情報が共有されなかった。第七の謎は最後の砦である格納容器が壊れたのはなぜかである。
    汚染水漏えい映像から、格納容器の奥底にあるサンドクッションドレント管から流れ出していたことが分かる。この本で巨大事故の深層は、おおくの装置の合成である場合に予測できなかった破壊が、幾つか起こるということがわかる。
    さらに、間違いやすい人間的判断や、情報共有が出来ない指揮系統のバラバラさなど組織の欠陥も浮かびあがって来る。同時に放射能の恐怖のなか、不可知の領域で復旧に努力する「現場」のドラマも凄い。(講談社現代新書