大泉一貫『希望の日本農業論』

大泉一貫『希望の日本農業論』

    1970年代から日本農業は衰退を辿り、農産物産出額の減少、輸出の少なさ、農家減少、目指す農業が不明確などで、世界に遅れをとった。大泉氏の論は明解である。稲作偏重農政が衰退の原因だと見る。それが農業を成長産業にしないという。不自然な計画経済が、生産調整しているのにコメを輸入してみたり、「低生産性の下での高価格」という現象が生じるという。大泉氏は、稲作偏重農政は「政官業のトライアングル」の農業保護行政にあると指摘する。
    農業成長より、米価を社会保障の道具にしたことにある。国民に農業を解放・参入させない農地法は、2009年改正で農地リースがやっと認められた。でも日本には農業経営者が存在しない。農民の相互扶助と営農指導のための農協は、金融機関化し、地域組合化し、事業ごとに子会社・株式会社化し、脱農化が進み、組合員も非農業者が多い。行政の下請けになり、農業振興・農業成長の組織ではなくなっている。
    大泉氏の農業再生の希望は、オランダやデンマーク農業のような生産性が高く、付加価値の農業で、新たな価値で市場開拓、商品開拓をおこなう「成熟先進国型農業」なのである。その特徴はマーケット指向で、輸出も視野にいれ市場開拓する「顧客指向型農業」であ、イノーベーションによる「技術開発型農業」であり、他産業とネットワークを創る「融合産業化」であり、経営ノウハウ重視の「経営革新型農業」である。
    大泉氏は情報産業化するオランダ農業や、「ニッチ戦略」で酪農産業を進展させたデンマーク農業を詳細に記述している。日本でも、農業先進県千葉、鹿児島、宮崎、愛知、茨城県や北海道で「成熟型農業」が進みつつあるという。営農・販売会社としての農業法人として、トップリバー、和郷園、野菜くらぶ、新福青果、庄内こめ工房、こと京都などを取り上げている。
    また豊田市岡崎市などの融合産業化も興味深い。大規模水田複合経営によるコメ輸出産業化も、今後の日本農業再生に重要である。大泉氏は自由貿易体制がきても、日本農業は闘えると希望をもって見ている。(NHKブックス