笠井潔・白井潔『日本劣化論』

笠井潔白井聡『日本劣化論』

全共闘世代の笠井氏と20歳年下の白井氏による、現代世界・日本社会についての徹底討論である。戦後史を踏まえた二人の討論は、あまり対決点はないが、現代日本を批判し、いかに劣化社会に成ってきているかが良く分かる。
    21世紀は「世界内戦」の時代であり、主権国家の解体と、世界国家なき世界社会へという長期展望は、両人とも一致している。私が面白かったのは、日本の劣化を食い止める砦は「アメリカと天皇」だという認識である。
    また冷戦後「アジアで孤立する日本」も面白い。笠井氏は90年代から今日に至る加害者責任論は、解体期新左翼が流行させた日本人はアジア民衆に血の負債を負っているという血債主義と、東アジア反日武装戦線に典型的な自罰主義と倒錯した倫理主義を微温化したもので、中国や韓国政府が政治に倫理を絡めてくる利害貫徹をそれでは批判出来ないという。
   ネトウヨ的右翼については、白井氏は「差異の不在ゆえの差異の捏造が、憎悪を亢進させ産む」といい、中流社会の崩壊現象が、意味の剥奪感、承認の飢餓感として右翼気分を増長しているという。ヨーロッパの極右が、移民に職を奪われ失業という経済問題が強いのとは、相違があると指摘している。
   左翼衰退は、ソ連崩壊と輸入理論マルクス主義の懐疑にあるが、両人があげているのは、反知性主義啓蒙主義の隆盛である。前近代的復古主義反知性主義とともに、近年のポストモダン反知性主義が、日本社会を劣化に導いているというのである。
   その担い手は、これまで知識層と大衆の中間層だったが、いまや新市場自由主義による資本化で大学や研究所まで広がった。リベラル知識層は、自己批判なく被害者を代弁したがるとも語っている。
   両人の意見には賛否両論があるだろうが、劣化社会に向かう現代日本への危機感はよく理解できるだろう。(ちくま新書