空本誠喜『汚染水との闘い』

空本誠喜『汚染水との闘い』

    安倍総理は2013年国際オリンピック委員会で、福島原発の核汚染水は原発周辺に限定されコントロールされているといい、東京五輪招致を勝ち取った。だが、空本氏は、敷地内に地下水と雨水が流れ込み、建屋の封じ込めが一部壊れ、完全な統制とはなっていないという。
    空本氏は2年半前に民主党内閣の時、「官邸助言チーム」の事務局長であり、原子力工学を専門とする東芝原子力エンジニアであったが、当時は衆議院議員で、東大の師・小佐古敏荘教授を内閣参与にし、「汚染水対策」緊急助言をおこなった人である。この時政府が収束宣言を出さずに、政府主導で汚染水対策を行っていたら、今の事態は防げたとし、当時の民主党政権の責任は重いという。
    高レベル汚染水が原子炉冷却の連続注水で増え続け、漏えいした水が海に流出していた事故当時、「官邸助言チーム」は建屋底部の漏えい対策、地表水や地下水の流入防止の迂回対策、山側と海側の遮水対策など緊急に国費投入で行う勧告をした。だが政府はそれを避け、東電も企業利益第一で費用効果のため、対策を行わなかった。
  この本を読むと、いかに核汚染水のコントロールが複雑で難しいかがわかる。いま原子炉建屋に滞留する汚染水を除去し、核除去設備で浄化し、周囲に凍土壁を作り、海側遮水壁建設などを行っているが、遅々として進まない難しさがあると空本氏は指摘している。
    官邸助言チームは、事故当時高レベル汚染水が海に流出していたため、低レベル汚染水を海洋放出し、その空いたタンクに高レベル汚染水を蓄積するよう助言を行い、漁業者から非難を浴びた。空本氏はその正当性を述べているが、国民への説明不足を反省している。さらにこの本では、詳しく水産物への影響を書いている。
 廃炉まで長い時間が今後かかるが、同時に核汚染水や核廃棄物をどうするかが重要になっている。空本氏は三つの提言をしている。第一は、現場作業員の長期安定確保、第二は、現場技術力の蓄積と継承、第三に、「食の安全」の検査・出荷管理・水産物情報提供である。(ちくま新書