小野俊太郎『ゴジラの精神史』

小野俊太郎ゴジラの精神史』
  怪獣映画「ゴジラ」は1954年公開だから、今年で還暦に成る。いままたハリウッド映画で「GODZILLA」が作られヒットしている。東宝が制作したゴジラ映画は28本になる。なぜゴジラは滅びないのかを、小野氏は精神史として描いていて面白い。
  ゴジラは、太平洋戦争の記憶と核放射能を組み合わせた時代に誕生した。当時アメリカ水爆実験と、その放射能を浴びた第五福竜丸事件が起きた冷戦時代だった。小野氏は其れをさらに100年前1854年日米和親条約締結と、南海トラフ地震の時代まで、ゴジラの起源を求めている。黒船と大地震ゴジラで、日本文化の破壊神と救済神の御霊信仰まで考えようとしている。
  ゴジラの精神史では、これまで太平洋戦争で日本兵玉砕のビキニ環礁硫黄島からゴジラが出現することなどから、ゴジラ=英霊説(加藤典洋氏)や復員兵説(川本三郎氏)戦争の死者の怨念集合体説や、ゴジラは幻の本土決戦をしている(佐藤健志氏)まで、さらにゴジラアメリカ説では、B29の東京大空襲の記憶まで考えた解釈があった。確かにゴジラは東京上陸し銀座など片つ端に破壊するが、皇居と靖国神社は避けている。
  ゴジラの精神史にはもう一つ核時代の放射能問題が深く絡む。小野氏は最終兵器同士の対決として、原子怪獣が、芹沢博士の新兵器オキシジェン・デストロイヤーにより同士討ちで死んでいくことに関して、秘密裏に戦中開発されていた日本製原子爆弾と関連させて書いている。小野氏は最初のハリウッド映画のゴジラは、アメリカに不利な核問題はすべてカットされ、水爆怪獣映画から後退し、単なるモンスター映画になったという。
  小野氏は、ゴジラ映画監督の本多猪四郎や原作者香山滋が、SF小説ヴェルヌの「海底二万里」など海に潜むものに大きな影響を受けたと述べている。なぜゴジラが海底に存在するのかの解釈は面白かった。またアメリカ映画「キング・コング」「原子怪獣現わる」「怪獣王ゴジラ」といった映画の比較もしていて、日米映画の共通性と相違性を明らかにしてくれる。
  また平成の「ゴジラ」(1984年版)では、静岡県浜岡原発と想定される原発を襲い、炉心の放射性物質を吸いエネルギーを得るゴジラが描かれている。ゴジラは核時代の「叙事詩映画」なのだ。(彩流社