西部忠『貨幣という謎』

西部忠『貨幣という謎』

  「貨幣が市場を作る」「観念の自己実現としての貨幣」「貨幣を変えれば市場も変わる」という西部貨幣論が明確になってきた考えさせられる本である。貨幣論といえば、岩井克人氏の名著『貨幣論』(筑摩書房)があるが、西部氏は「予想の無限の連鎖」という岩井氏の貨幣論にたいして、「観念の自己実現」「慣習の自己実現」を主張している。人間の合理性に基づく無限の予想性からだけ貨幣を捉えず、またドルなど単一貨幣を想定せず、多様な貨幣(電子マネー、コミュニティ貨幣、ビットコインまで)の競争と進化まで含め、西部貨幣論は論じられていく。
  電子バザールや株式市場から貨幣を考え、貨幣生成の原理を見出していく。貨幣は「もの」でなく「こと」であり、他者の欲求の模倣が貨幣を産み出すと説く。「観念の自己実現」として貨幣をとらえると,貨幣は「仮想現実」となる。日銀券とビットコインの共通性が見いだせる。だが、この観念には「慣習」と「予想」という集団心理が働く。貨幣は情報化と信用創造の二つの流れがある。暗号貨幣ビットコインもそこから生まれる。
  私は貨幣が産み出す病としてバブルとハイパーインフレ論が面白かった。貨幣の本質が示されているからだ。人間の他者への「同調願望」と、投機などに見られる他者の予想を見抜き上をいく「無限の予想」が、(ケインズのいう「美人投票」、いまふうにいえばAKB総投票か)バブル、ハイパーインフレに付きまとうというのだ。
   アベノミックスの後にくるかもしれないインフレという貨幣の病を乗り越え、未来の貨幣はどうなるのか。
  西部氏はハイエクの訳者だけあって、「貨幣の脱国営化論」にくみしているようだ。貨幣を脱国営化し、貨幣発行を民間銀行、企業に自由に行わせ、量(通貨供給量)でなく、質(価値の安定)をめぐる通貨間競争を導入し、悪貨を駆逐するという。金融の量的緩和よりも、コミュニティ通貨や電子マネービットコインなど貨幣を多極化することに、西部氏は注目しているようだ。(NHK出版新書)
追記 「朝日新聞」2014年5月28日朝刊によると、ビットコインのような仮想通貨は、いま世界で200を超えるという。日本では「2ちゃん」のモナーコインがあると報道している。