安田敏朗『金田一京助と日本語の近代』

安田敏朗金田一京助と日本語の近代』

 最近テレビで日本語学者金田一京助の三代の学者家系物語を観た、安田氏は家族の物語ばかり強調されるなかで忘却される日本語研究にこの本で焦点をあわせている。金田一といえば私はアイヌ叙事詩ユーカラ研究と「明解国語辞典」といった知識ぐらいしかなかった。安田氏の本を読み、金田一京助が近代日本語研究に果たした役割や、戦後の国語改革に主役を務め、いま私たちが使っている現代日本語―漢字制限、現代かなづかい、標準語、敬語―の基礎を定めたことも知った。
安田氏はなぜ金田一アイヌ研究をしたかを、日本帝国大学言語学における近代言語学成立から説き起こし、上田万年により日本語の系統を調べ、周辺言語から日本語中心と世界展開をはかり、そなため滅び行くアイヌ語に系譜を求めたという。この系譜の呪縛は大野晋の日本語=タミール語系譜論までつながっている。当然金田一アイヌ語の国語=日本語への同化論であり、最近の絶滅危機言語の言語権や復興とは相容れない。
安田氏はこの本で、戦後の国語審議会における国語改革で金田一を主役として書いている点が興味深かった。標準語でも東北(岩手)出身の金田一が、東京語をもとに簡明・簡素な標準語を「東京の良識人」によって確立していく論者だったことも面白い。方言とのバイリンガル論者でなかった。金田一は漢語崇拝を批判し、漢字を減らす当用漢字を称揚したが、いまや常用漢字表の字数を増やす方向なのは皮肉」である。さらに「現代かなづかい」は金田一命名だというが、音韻論により、発音そのままでないかなづかいを設定しょうと苦闘している。また敬語は必要という主張で「平明・簡素」にしょうとした。安田氏の本を読み、現代日本語を考える上にも金田一の学知は、批判も含めて大きな役割をしていると知った。(平凡社新書)