中沢新一『日本の大転換』

中沢新一『日本の大転換』

 東日本大震災福島原発事故は復興だけでなく、大きな文明転換が必要と説いた書である。中沢氏はエネルゴロジー(エネルギーの存在論)から「太陽と緑の経済」への転換を説く。生態圏からのエネルギー転換だが、この本では原発の存在をグローバル資本主義と相性がいいと位置付け、自然再生エネルギーをビジネス化し復興するのではなく、市場経済を中心の構造を、「贈与」と「人間交差」の生態圏の生き方へと転換して行こうとするのが、中沢氏の主張である。
エネルギーの存在論が迫力ある論調となっている。中沢氏によれば、原発は生態圏の外部の、太陽圏に属する核分裂・融合の高エネルギー現象を、生態圏の内部に直接持ち込む技術である。これまでのエネルギーである石炭、石油など化石燃料は、太陽を「媒介」にして光合成した植物の生態系から生じていた。これが媒介されず太陽圏の「外部」を、「内部」に取り込んだため「閉ざされた」存在にならざるをえない。ただし私は、中沢氏が宗教学者らしく述べる原子炉をユダヤ教からの「一神教技術」という解釈と、ユダヤ思想的技術という考えには判断を留保したい。ヒンズーや仏教の生態的という考えももう少し考えたい。
中沢氏の凄さは、原子炉を「資本の炉」とし、資本主義市場経済と結びつけて分析し、「太陽と緑」という太陽からの「贈与」経済―自然からの贈与―として、光合成による農業・水産業から全経済構造の転換を説く点にある。当然ケネーなど重農主義経済学が見直され、「地域通貨」が重要視されてくる。市場経済が市場の閉ざされていくのに対して、贈与の緑の経済は開かれた人間関係の交差から生じる。具体的政策というよりも、震災と原発事故以後のおおきな思想的転換のマニフェストとして読んでいて興味が尽きない。(集英社新書