広い良典『創造的福祉社会』

広井良典『創造的福祉社会』


 広井氏は高度経済成長後の社会を、持続可能な「定常社会」にいかに変えるかを、環境―福祉―経済から考えてきた。この本では「定常社会」を文化的創造の社会と位置づけ、人類史という壮大な視野で精神・文化革命期として捉えようとしている。定常化社会は「時間」より「空間」が、「歴史」にたいして「地理」が優位になるという。そのためグローバル化の先のローカル化を論じ、都市政策と福祉政策の融合による都市型コミュニティの確立や農村など地域社会の循環的自立による「幸せ」とは何かを模索している。
だがこの本の主題は人類史のなかで「定常期」がいかに「文化的創造期」だつたかの該博な知識による分析にある。第一の定常期である狩猟採取社会は、物質的生産が最大を迎え行き詰った時の紀元前5万年に、洞窟壁画、彫刻、装飾品など脱物質の文化的ビックバンが起こる。第二の定常期である農耕社会の森林伐採など自然破壊の紀元前5世紀に旧約キリスト教ギリシャ哲学、インド仏教、中国儒教道教など精神革命がおこり、精神の内面に目を向け、異なるコミュニティを繋ぐ「普遍的人間」の確立と利己的欲望の抑制を創造しようとしたと見る。物質的生産の拡大をみた産業社会の第三の定常期がいま始まっており、精神内的、質的価値観の倫理転換が起こっていると広井氏は考えている。
ではその価値観とは何か。広井氏は倫理と社会構造のダイナミックスから、あくまでも「個人」から出発しながら「地球倫理」を提示している。地球という有限性の自覚と、地球上の各地域の風土や思想等の多様性の認識を挙げている。狩猟社会の「互恵的利他主義」の重視はモースの「贈与=協同主義」を思い浮かべる。ポスト資本主義や少子高齢社会や震災後の社会を考えるためにも重要な本である。(ちくま新書