只木良也『新版 森と人間の文化史』

只木良也『新版 森と人間の文化史』


 年間降水量が多く、国土の三分の二が森林である日本は「森の国」である。只木氏によると、森林は日本文化の石油であったという。また水保全、土保全のための「緑のダム」でもあった。土砂災害などの浸食作用の防止、津波防潮林、防風林、二酸化炭素の吸収(京都議定書では大きな割合を占めていたが)大気浄化、水質浄化、動植物の生態系の基礎、と環境保全の立役者なのである。
だが現実はどうか。木材資源として切られ、経済成長以後に木材不況、外材輸入(木材自給率20%)で、森林の効用が少なくなり、森林を担う山村は過疎化、高齢化で弱体になり、森林の間伐も思うように行かず荒れてきている。グリーン化の動きのなかで、いかに日本の森林を活性化するかを只木氏は、この本のなかで示している。只木氏が急進的自然保護運動と呼ぶ人工林も自然破壊だという立場は取らず、人工林に不可欠な下刈り、ツル刈り、間伐、林道の整備など「保護」と同時に「保全」が大事という。只木氏は、木材生産業というよりも、国土環境保全論の立場から、森林を考えようとしている。
そのため「環境も売れる」という発想で「森林の多目的利用」として、木材、水、野生動物、レクリエーション、牧草地利用などを挙げている。水保全のため「水源林基金」として、受益者である下流が、上流の水源林のため資金を提供する制度も少しずつ実現している。今後の環境重視時代にもっと森林を考えなければならないし、山村をどう活性化するかが21世紀の重要な課題になる。「森ガール」よ、頑張ってくれ。
文化史としては「マツ林盛衰記」が面白かった。日本文化でマツは白砂青土(日本三景など)をめでるが、マツは新しく先史時代や卑弥呼など古代ではマツを見なかったという。人間が森林の収奪を繰り返し、土地がやせると、マツが進出してくる。里山のマツはこうしてできる。皮肉なことに石油文明で木材が切られなくなり、肥沃化すると他の樹木が復活しマツは落ち目になる。手入れもされず松くい虫が増殖しマツ枯れがおこり、マツタケも取れなくなる。(NHK出版)