大和田俊之『アマリカ音楽史』

大和田俊之『アメリ音楽史


 音楽史だがアメリカ現代史でもある。大和田氏はミンストレル・ショウからブルース、ロック、ヒップホップまでのアメリカ音楽を辿る。視点が明確であり、視野が広くアメリカ社会が見えてくる。いい本だと思う。ではその視点とは何か。アメリカ・ポピュラー音楽は「偽装」願望からなり、自分を偽り、相手に成り代わり、別人になり仮面をかぶる。白人が黒人に成りすまし、アフリカ系がヒスパニック系やアジア系のペルソナを用い、ユダヤ人は黒人の振りをし、さらに男性は女性に異装し、中産階級は労働者を装う。人種混交のハイブリット・雑種文化と考える。
 その原点は19世紀半ばの白人が顔を黒く塗り黒人の振る舞いをする大衆芸能ミンストレル・ショウと大和田氏は見ている。このショウから出た作曲家が「草競馬」「故郷の人々」のフォスターである。黒人のブルースの発見は白人のカントリーミュージックと裏表であり、ティンパンアレーのユダヤ人作曲家ジェローム・カーンガーシュイン、リチヤード・ロジャースらは黒人音楽ジャズに自らを偽装する。ビバップ革命で即興性を重んじるモダンジャズをえて、R&B、ロックンロールという人種混交が1950年代に生じる。ここに人種的他者の偽装があり、エルヴィス・プレスリーチャック・ベリー、などロック歌手はみな南部出身者で占められる。大和田氏はロックにミンストレル・ショウの精神を見る。
 ヒップホップを空間性と深さのなさのフラットな平面性というポストモダン論から説明しているのは面白かった。最近アメリカ音楽のラテン化が注目されている。いまやヒスパニック系が人口でも黒人をしのぎ、2050年には全人口の25%になると予想される。近年は「南北アメリカの想像力」に焦点が移りつつある。ロックをラテン音楽の変種と見る見方もでており、カリブ海諸国の音楽、マンボからサルサまでも重要視され、ニューオリオンズの雑種文化性が再び音楽史で注目されてきている。(講談社選書メチエ