ワックス『法哲学』

レイモンド・ワックス『法哲学

 法とは何か、正義とか権利とは何か、道徳とどうかかわるのかなど法思想は司法の根本的な問題である。近代哲学でもロック、ベンサム、カントからヘーゲルにとって論議されている。ロンドン大教授・ワックスの本は自然法、法実証主義法社会学、さらに批判法学、ポストモダン法学、フェミニズム法学まで広い視野で論じられていて法に関する思想が見渡せる。もちろんロールズの正義論も逃していない。
 私が興味をもったのはドゥオーキンの「解釈としての法」である。法実証主義が法は承認を伴ったルールだと考えるのに対し(ハートなど)、法は本来的に解釈的現象だという。個人の権利と自由を正当化してくれるような最善の道徳理論の解釈者として裁判官はとらえられる。法理論と文芸解釈は親和性があり、裁判官は作者が意図したことを建設的・構成的に解釈する連作小説の作者の立場に立つという。ドゥオーキンの正義、公正の考えはロールズに近く、市民たちを「平等」に配慮と尊重をもつて扱うというものである。
 また批判法学の紹介も面白かった。法は不確定性・決定不能性があり、自律的・中立的でもないし、首尾一貫せいもないという批判法学にラカンデリダまでのポストモダン法学を含め論じているが、ワックスはその有効性は認めていない。(岩波書店・中山竜一訳・解説・橋本恭子、松島祐一訳)