岡本太郎・宗左近「ピカソ講義」

岡本太郎宗左近ピカソピカソ講義」』

 岡本太郎宗左近ピカソについて話を聞いたものだが、岡本がピカソの同時代人として一体化していて、ピカソ論であるのか岡本論なのかわからなくなる迫力がある。1930年代パリでピカソとめぐり会う岡本は、画廊で絵をみて心身が爆発する。抽象的であるけれどナマナマしいもので決して冷たくないという。ピカソは抽象になれず、ナマナマしいものでなくては成らず、非観念的・非抽象でキュビニズムはギリギリにものにせまる自由さの手段だったと岡本は語る。非ヨーロッパ的黒人芸術の原始芸術の影響というスペインの血も指摘されている。
 ピカソが自己矛盾をかかえ、常に自己を変革しようとする悲劇も語られているのが面白かった。「ピカソにおける矛盾というのは、彼の個のなか、内部に沸き起こるドラマなんだ。ダリとか、その他いろんなスュールレアリストの矛盾となると、個の外に出て、外と自分の問題をぶつける」という。この「他をもたない自己充足」が晩年にピカソを、アトリエに自閉させ、「画家とモデル」しか描かないことにさせる。ピカソの悲劇は、自己変革の前衛が社会的成功になり特権になってしまった悲劇だという岡本の鋭い指摘は、20世紀芸術や社会革命にも当てはまると思う。ピカソを乗り越えようとする岡本は、全社会的な芸術変革として「ゲルニカ」を評価し、なまぬるく「趣味的自己充足」のナルシズムの日本芸術を否定しているのも、面白かった。岡本とピカソの芸術を知るための本である。(ちくま学芸文庫