石井誠治『樹木ハカセになろう』

石井誠治『樹木ハカセになろう』


 樹木医として各地で樹木を診断している石井氏の、樹木についての基礎的な話であり、いかに樹木を知らなかったかを教えてくれる。樹木といえばすぐ巨樹としての縄文杉や大クスノキなどを思い浮かべるが、この本は私たちの身近にあるイチョウサルスベリ、サクラ、ヤナギ、ハンノキ、ミズナラトチノキ、ツバキなどが取り上げられていて樹木に親しみを感じさせる。
と同時に「木の生き方」や「木がかわいそう」さらに「木がもつ不思議な力」などを読むと、4億年前のシルル紀に陸上に植物が上陸してからの樹木の存在の凄さを感じさせられる。樹木に比べると人類は束の間の存在にすぎない。
 木の生き方の説明も「葉で考える木たち」と石井氏がいうように光合成という太陽発電のような人間がかなわない能力として「葉」の重要性を指摘し、なぜ紅葉や黄葉になるのかを説明していく。木の心臓はノミのような心臓だとし、木が幹で高いところまで水を吸い上げる仕組みを説いているのも面白い。また根は胃や腸のはたらきとして説明しているのもわかり易い。
サルスベリの幹は何故冷やっとするのかとか、なぜ銀座にはヤナギなのかとか、日本中になぜソメイヨシノザクラが多く植えられたのか、街路樹のトチノキになぜ赤い花が咲くのかなど疑問が解かれていく。いま花粉症で悪者にされているスギがどうして植林されたかから、なぜ花粉症に人の体質が変わったかを読むとスギが好きになって来るから不思議だ。イチヨウは3億年の歴史を持つが、巨樹で移植に耐えられる唯一の木であり、日比谷公園の「首かけイチョウ」の由来や、生き残った秘密は葉のエキスにあり、いま認知症に効果があるとして医薬品化しているという。「公孫樹」と書くのはゆっくり成長するためで植えてから銀杏が実になるには孫の代までかかるから来ている。石井氏の樹木への愛情が易しい説明とあいまって樹木の凄さがわかる本である。ここで夏石番矢さんの俳句を思い浮かべた。「東京に破顔の千年樫ありき」(岩波ジュニア新書)