武谷三男『フェイルセイフ神話の崩壊』

武谷三男『フェイルセイフ神話の崩壊』

 巨大技術の典型は原子力発電だが、安全装置がたくさん付いているから安全だというのがフェイルセイフ神話である。物理学者・武谷三男は、はやくから「原子力発電」「安全性の考え方」「科学大予言」などで原発の危険性を指摘し続けた。この本も1989年に出版されたものだが、いま読むとその先見性に眼が開かれる。この本ではスリーマイル島原発事故、チェノブイリ原発事故のあとに書かれたものだが、当時原発事故は隕石が地球に衝突する確率でしか起こらないし、二重、三重の防護装置があるから安全だと宣伝されていた。武谷は安全装置が複雑になれば共倒れになり大事故になる危険性があると述べていた。
 武谷の立場は核兵器原発は一卵性双生児だという考えで、まだ実験研究の段階で実用化されてしまったと述べている。放射能放出、核廃棄物処理廃炉炉心溶融など(武谷は「トイレなきマンション」と形容している)まだ解決されていないうちに実用化されたと指摘している。原発は、巨大な100キロワットのエネルギーを狭い空間に集中的に閉じ込め発生させる綱渡りの技術だ。武谷はこう語っている。どんどん借金を重ねているようなもので「原発で出る廃棄物はコストに入っていない。大事故のリスクも入っていない。廃炉の処理という技術が全然できていない。そのコストも入っていない。」
 「安全性の哲学」では①安全が証明されたものでない限り、実施しない②許容量や基準量などは安全な量を意味しない③有毒性は直ちに医学的に検出されるとは限らない④天然に放射線など有害物があるからといって、人工的に同じものを付加するのは許せないなどを武谷は挙げている。またどれだけ人体を犠牲にしてまでエネルギーを必要とするのかと問いかけ、電力文明に対して「ローソクの生活になりますよ、といわれたときに、いいですよと開き直れる点はいいかもしれないが、東京1千万の人口の都市に対して独占資本である電力会社が、ローソクの生活になりますよ、といったときに東京はどうするかという問題ですね」とも語っていた。その先見性に敬服した。(技術と人間社)