酒井健シュルレアリスム
P・ワルドベルグシュルレアリスム

 東京・国立新美術館で2011年2月から5月までパリ・ポンピドゥセンター所蔵の171点を展示した「シュルレアリスム展」が開催されているというので見に行く。キリコ、エルンスト、マン・レイ、マッソン、ピカピァ、ミロ、マグリットジャコメッティ、ダリ、デュシャンなど錚々たる画家の絵が展示されていた。20世紀の芸術・文化運動としてのシュルレアリスムは詩、文学、絵画、彫刻、映画、写真などに大きな影響を与えた。19世紀までの伝統的絵画から決別したといえる。
 酒井氏の本は第一次世界大戦の経験から生まれ、近代の「デカルト的世界」の理性主義至上に対し、人間の非理性的世界の重視した。そこにはフロイドの精神分析学の思想があり、無意識の欲望世界の夢やエロス、タナトス(死)、狂気や近代人文明人の深層の悪、野生への注目があるという。そこからブルトンがいう無意識の「自動記述」が重んじられる。酒井氏によると、「超現実」とは物と物、人と人、場面と場面、この時とあの時といった二つの事柄のあいだで偶然に起こる。「偶然性」のイメージ世界が大切になる。この展覧会にもマン・レイの「ミシンと雨傘」が偶然出会う絵があった。美の痙攣と「不可能性」(バタイュ)による驚愕の追及がある。ルネ・マグリットの絵画がそうだ。酒井氏は偶然税の絵画として、エルンスト、デュシャンマグリットをあげ、欲望の絵画としてマッソン、ミロ、ダリを挙げている。
ワルドベルグの本は、簡にして核心をついたシュルレアリスムの解説になっていて、なによりも思考の方式、感受する方式、生きる方式として捉えている。私が面白かったのは、「夢や幼児の心性」に身をゆだねるキリコのような夢遊病的人物と、芸術を純粋行動に置き換えようと勤めるデュシャンのように高度に意識的人物の極の間に、エルンストの「幻視能力の過激化」までも含めた絵画の彼方を求める画家たちの分析だった。この本はシュルレアリスム資料集が含まれ、ブルトンの宣言や絵画論、詩選にエリュアール、ペレまであって便利である。(酒井健シュルレアリスム中公新書、ワルドベルグ・巌谷国士訳『シュルレアリスム河出文庫