ソール『帳簿の世界史』

ジェイコブ・ソール『帳簿の世界史』

    歴史学会計学専門のソール・南カリフォルニア大教授は、18世紀フランスで、財務総監コルベールからルイ14世は、収支や資産が記入された帳簿を受け取りながら、その習慣をやめたため、フランスを破綻させたところから、複式簿記・会計監査の視点から世界史を書いた。面白い。
    日本でも最近に東芝が利益水増しの不正決算を行い、経営陣が引責辞任した。そのチエックしていた新日本監査法人公認会計士法で監査していたが、見逃していた。アメリカでは、2001年エンロン粉飾決算で、株価を押し上げた最大の不正会計が暴露され、監査法人アーサー・アンダーセンは、解散に追い込まれた。
    ソール教授によれば、監査法人が会計監査よりも、企業のコンサルティング事業の方が巨額の報酬になるため癒着しやすいという。1929年大恐慌も企業のバランスシートの水増しの産物の面もあり、2008年のリーマン・シヨックも、金融業界は、事業内容が複雑すぎ、規模も大きく銀行も政府機関も、監査不能だとソール教授はいう。
   ギリシア危機をみても、国家や地方自治体の会計のバランスシートに多く問題があるし、中国政府は透明性ある会計責任を公表していない。日本を始め世界の政府は、財政が無政府化している。ソール教授は、ルネサンス期の複式簿記が使用されたイタリアから、近代スペイン、イギリス、フランス、オランダ、アメリカなどの商業国家を会計の帳簿から、歴史を辿っていて面白い。
   ソール教授の世界史では、最初に目覚しい会計改革で強国に発展するが、次第に会計責任が曖昧になっていき、いまだに会計責任が政府でも、企業でも確立されず、闇の部分がおおきくなるというパターンがあるという。フランスを破産に追い込み、革命の下準備をしてしまったルイ14世は、過去の歴史ではない。未来の資産価値を現在におきかえる複式簿記の歴史を、これほど描いた本はないだろう。
権力とは財布を握っていることだといったアメリカ建国期の財務長官ハミルトンからの、アメリカの帳簿の歴史は、新しい始点に気づかせてくれる。(文藝春秋、村井章子訳)