コーフィールド『太陽系はここまでわかつた』

R・コーフィールド『太陽系はここまでわかった』


 この本は、人類の1950年代からの宇宙探査機の歴史と、その観測データによる今わかっている太陽系惑星の状況を述べたものである。2010年に日本の小惑星探査機「はやぶさ」の小惑星イトカワのサンプル収集と帰還が話題になつたり、冥王星が惑星から外されるなど話題になった。この本を読み、かってない天文学的発見の時代にあり、太陽系の世界は多様性に満ちており、独特の個性を持つ点で生命体に似ている(グールドの言葉)と思う。比較惑星学を語れる段階に入った。個々の惑星は偶然の出来事により独自の物語を持つ。コーフィールドは巨大惑星木星土星の衛星に生命が発見されるかもしれないいし、他の恒星に地球型惑星がある可能性を示唆している。
 米ソ冷戦時代になにか利点があったとすれば、宇宙探査競争がそれだといえる。深宇宙探査機「ヴォイジャー」や「パイオニア」の探査がなければ、木星土星の衛星、さらに海王星天王星、さらに太陽系外縁天体に冥王星の吸収などは起こらなかった。人間が地上から観察して想像で作り上げた仮説が次々破られていく知的認識の歴史は面白い。
 私が興味を引いた点を列挙してみよう。太陽の黒点活動と気候変動の関わりがある。水星のカオス的地平は、金星や火星や地球のような地殻変動がなく数十億年も静止している。水星は異端者でもっとも小さく、もつとも古い表面をもち表面温度の変動は最大である。
 金星はかって地球のカンブリア紀で生命の存在が唱えられたが、500度の熱い惑星で地球のカンブリア紀に激しい地殻変動に見舞われ表面が一掃されてしまったという。地球にクレーターが存在しないのは、地殻変動が海洋底と大陸をマントルへ回収し、浸食作用が変えている変動激しい惑星といえる。火星は地殻変動の活発な状態とそれがない状態の中間にあり、水の存在可能性の出てきている。木星ガリレオ宇宙船の観測で衛星エウロバ、ガニメデ、カリストも、凍った表面の下に液体の塩水を蓄えていることが判った。海王星放射性物質の熱源を持つ。太陽系の果てで凍りついた世界でなく激しい気象現象でかき乱されている。私が驚いたのは太陽系の境の外縁天体の存在だった。だがこの本に書かれた(2007年)データも今後書き換えられていくだろう。(文春文庫・水谷淳訳)